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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)4880号 判決 1976年8月23日

原告

同和火災海上保険株式会社

ほか一名

被告

山恭水産こと山田恭造

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告同和火災海上保険株式会社に対し金七八万六〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一〇月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告有限会社和田運送に対し金八万五〇八四円およびこれに対する前同日から支払ずみまで前同割合による金員を支払え。

二  原告有限会社和田運送のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告同和火災海上保険株式会社と被告らの間においては被告らの負担とし、原告有限会社和田運送と被告らの間においてはこれを五分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは各自、原告同和火災海上保険株式会社に対し金七八万六〇〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一〇月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員、原告有限会社和田運送に対し金七二万九四〇〇円およびこれに対する前同日から支払ずみまで前同割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故

原告和田運送はつぎの交通事故により後記の損害を被つた。

1  日時 昭和四九年一二月一五日午後一〇時ころ

2  場所 鶴岡市大字西目地(由良峠)路上

3  加害車 大型貨物自動車

運転者 被告長政明

同乗者 訴外阿部金一

4  被害車 大型貨物自動車

運転者 訴外森静義

同乗車 同松本正義

5  態様 加害車が被害車に追突

二  責任原因

1  使用者責任(民法七一五条一項)

被告山田はその営む事業のため被告長を雇用し、同被告が被告山田の業務の執行とし加害車を運行中、つぎの過失により本件事故を発生させた。

2  一般不法行為責任(民法七〇九条)

事故現場は由良峠を越えた下り坂で前方の見通しは良い。訴外森は被害車を運転して進行中、路面凍結のためスリツプしたので危険防止のため制動したところ反対車線にわたり斜めに停車したので、直ちにマーカーランプ、駐車灯を点け他車にその存在を知らせ、道路脇に移動すべく準備中、後続の加害者が被害車のマーカーランプに気づきながらこれをドライブインの灯りと誤認し時速約三〇キロで進行し被害車の直近約三〇メートルに至り、ようやく被害車を発見し被害車の左側を通抜けるべく加速のうえ左転把したがかわしきれず、被害車の後部に追突、その衝撃で被害車はガードレールに衝突した。

右事情によると、被告長は適宜減速のうえ前方注視を厳にして進行すべきところ、これを怠つたうえ、的確な制動措置、ハンドル操作をしなかつた過失により本件事故を発生させたものである。

三  保険代位

原告同和火災は原告和田運送に対し昭和五〇年八月二七日、車両保険契約により原告和田運送が本件事故により被つた後記損害につき金七一万五〇〇〇円を支払つたので、原告同和火災は商法六六二条により右金額を限度とし原告和田運送の被告らに対する損害賠償請求権を取得した。

四  損害

1  被害車(原告和田運送が訴外和歌山三菱ふそう自動車販売株式会社から所有権留保付販売契約により購入し、割賦払中のもの)前後部等破損、積荷(みかん一〇四〇箱)一部毀損

2  損害額

(一) 修理費 金七二万五二〇〇円

(二) レツカー代 金一一万二〇〇〇円

(三) 被害車輸送費 金七万円

(四) シート修理費 金一万八〇〇〇円

(五) 積荷弁償金 金一万三二〇〇円

(六) 同積替輸送費 金四万円

(七) 休車損害 金四〇万円

原告和田運送は訴外有限会社明洋運送と被害車につき傭車契約を結び、昭和四九年一一月二四日から同年一二月一四日迄の間同訴外会社から金一二七万六一二五円の運送代金の支払を受けたので、被害車の一ケ月当りの運送代水あげは金一八二万三〇三五円となるところ、必要経費は金一二五万三一三八円(運行費金二二万一三七一円、燃料費金二七万二九一〇円、償却費金二三万六一六七円、整備費金一〇万円、人件費金四〇万円、諸税金一万五〇三二円、自賠責保険金七六五八円)であるから、被害車の一ケ月当りの純収益は金五六万九八九七円である。

而して、被害車の修理期間は三六日であるので、その間の原告和田運送の被つた休車損害は金六八万三八七六円となるが、これを控え目に算定し金四〇万円とする。

(ハ) 弁護士費用 原告和田運送 金六万六〇〇〇円

原告同和火災 金七万一〇〇〇円

五  結論

よつて、原告らは被告らに対し本件事故に基づく損害の賠償として、原告同和火災において金七八万六〇〇〇円およびこれに対するもつとも遅い本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年一〇月一九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金、原告和田運送において金七二万九四〇〇円およびこれに対する前同日から支払ずみまで前同割合による遅延損害金の各自支払を求める。

第三答弁

請求原因一項は認める。

同二項は過失の点を除き認める。被告長に原告主張の過失はない。

すなわち、事故現場は周囲を山でかこまれた起伏の多い山間の道路で見通しが悪いうえ、当時濃霧が発生し、又、雪が舞い視界は約三〇メートルに制限され、そのうえ峠の頂上から下りにかけ路面は凍結していた。

そこで、同被告は加害車にスノータイヤをつけ時速約三〇キロ(法定時速五〇キロ)で進行していたところ、原告ら自認のように被害車が加害車の進路を妨げ斜めに停車しているのを約三〇メートルに接近してようやく発見し(被害車のマーカーランプは後続車から識別し難く、右の状況からして、同被告がこれをドライブインの灯りと誤認したのも止むを得ない)、急制動してもスリツプし追突を免れ得ないものと判断し、逆に加速して路外へ乗り上げようとしたが、結局追突してしまつたのである。

被害車が右のような状態で、停車していることを事前に予測することは不可能であつたから同被告の運転方法に何ら責められるところはない。それにひきかえ、被害車はスノータイヤを着けていなかつたためスリツプし右側ガードレールに衝突し、右のような異常な停車を余儀なくされたうえ、他の自動車の進路を妨害していながらマーカーランプ等を点けただけで、発煙灯、懐中電灯の使用、警音器吹鳴等による十分なる危険告知の措置を怠つていたもので、訴外森の怠慢こそ本件事故発生の原因である。

同三項は不知。

同四項1の被害車の損傷は認める。

同四項2(一)の損害の発生は認めるが額は争う。なお、被害車の所有者は訴外三菱ふそう自動車販売株式会社であるから、右損害は同訴外会社の損害というべきである。

同(二)(三)(六)の損害の発生は認めるが額は争う。

同(五)は争う。

同(七)は不知。

第四抗弁

一  和解

昭和五〇年一二月一五日、訴外森と被告両名の間で本件事故に関し、互に相手に対する損害賠償請求権を放棄する旨の合意が成立している。

二  相殺

本件事故により被告長は金三五万七七三〇円、被告山田は金二〇九万六四五〇円の損害を被つているので原告らに対し対等額において相殺の意思表示をする。

三  過失相殺

前記のとおり本件事故発生については訴外森にも過失があるから過失相殺されるべきである。

第五原告ら答弁

一  和解

争う。原告和田運送と被告らの間で和解は成立していない。

二  相殺

主張自体失当である(最判昭和四九年六月二八日参照)。

三  過失相殺

争う。

理由

一  事故

請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  使用者責任

請求原因二項1の事実は過失の点を除き当事者間に争いがないところ、過失の点については後記認定のとおりであるから、被告山田は民法七一五条一項により本件事故による原告和田運送の損害を賠償する責任がある。

2  一般不法行為責任

成立に争いのない甲一四号証の一、二、証人森、同松本、同阿部の各証言、被告長本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

本件事故現場の道路幅員は七、八メートル、峠の下り坂で、稍左に曲つているが、衝突地点の約八〇メートル手前附近から前方の見通しを妨げるものはない。しかし、附近に照明は乏しく暗い。指定速度制限はない。

事故当時、時折、風で雪が舞い視界は妨げられ、又、路面は凍結していた。

訴外森は被害車を時速四〇ないし五〇キロで運転して東進中、前方約五〇メートルの地点に二台の自動車(四トン貨物車と普通乗用車)が停車しているのを認め、制動、右転把したところ路面凍結のため反対車線上へ滑走し、右側ガードレールに衝突し東行、西行両車道にまたがり斜めに停車したので、被害車側面のマーカーランプ(六ケ)、駐車灯を点け、後退しようとした際加害車に追突された。なお、被害車のタイヤは、普通タイヤで、チエーンはつけていなかつた。

被告長は加害車を時速約三〇キロで運転して進行中、前方約七、八メートルの地点に被害車のマーカーランプを認めたが、被害車が停車していることを確知し得ず、更に約二五・六メートル進行したのちようやく被害車の車体を認め危険を感じたが急制動すると滑走するので逆に加速のうえ左転把し路外の材木置場へ逃れようとしたが果さず被害車に追突し、その衝撃により、被害車はガードレールを突き破り車体半分を路外へ押し出された。

なお、加害車の前輪(二本)、中輪(四本)はスノータイヤで後輪(四本)は普通タイヤであつた。

以上の事実が認められる。

右事実によると、被告長は、少くとも被害車のマーカーランプを認めた際、前方注視を厳にし、且、適宜減速して進行すべきところ、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものと認められるから、同被告は民法七〇九条により本件事故による原告和田運送の損害を賠償する責任がある。

三  保険代位

成立に争いのない甲一二、一三号証、証人石丸の証言を総合すると、請求原因三項の事実が肯認される。

四  損害

1  被害車破損については当事者間に争いがなく、積荷毀損については後記認定のとおりである。

2  損害額 金一三一万六八〇七円

(一)  被害車修理費 金七〇万円

証人松本、同石丸の各証言とこれらにより成立を認める甲八号証によると、本件事故と相当因果関係の範囲内にある被害車修理費は金七〇万円と認めるのが相当である。

なお、被害車の所有権が割賦販売契約により売主たる訴外三菱ふそう自動車販売株式会社に留保されていること、当事者間に争いがないが、このような場合でも右修理費は被害車の買主、使用者である原告和田運送の損害と解して差支えないものと認められる。

(二)  レツカー代 金一一万一〇〇〇円

前同証言ならびにこれらにより成立を認める甲九、一〇号証により認める(甲九号証記載中写真代を除く)。

(三)  被害車輸送費 金七万円

証人松本の証言とこれにより成立を認める甲五、六号証により認める。

(四)  積荷(みかん)弁償金 金一万三二〇〇円

前同証拠によると、本件事故により被害車の積荷たるみかんが一部毀損したので、原告和田運送は荷主に対し損害弁償として右金額の支払をなしたことが認められる。

(五)  積荷積替輸送費 金四万円

前同証拠により認める。

(六)  被害車シート修理費 金一万八〇〇〇円

前記甲五、六号証、証人松本の証言とこれにより成立を認める甲三、四号証により認める。

(七)  休車損害 金三六万四六〇七円

証人松本の証言とこれにより成立を認める甲一号証の一、二、七号証の一、二、によると次の事実が認められる。

原告和田運送に属する被害車は訴外有限会社明洋運送との傭車契約により同社の運送業務に従事し、事故直前である昭和四九年一一月二四日から同年一二月一四日迄の実績によると、その間金一二七万六一二五円の運賃収入をあげたところ、経験則によると右収入のうち八〇パーセントは必要経費と認めるのが相当である(この点、明確な証明はない)からこれを控除のうえ、被害車の得た一ケ月当りの純収益を算定すると金三六万四六〇七円となる。

而して証人石丸の証言により成立を認める甲一一号証によると、被害車の修理期間は三一日間と認められるので、この間の被害車休車による原告和田運送の損害は金三六万四六〇七円となる。

五  過失相殺

前二項2認定の事実に照すと、本件事故発生については訴外森にも、凍結路面を走行するのにスリツプ防止措置をとらず、且、視界の悪い路上で他の車両の通行を妨害するような形態で停車しているのに、単にマーカーランプ等を点けたのみで十分な危険予告措置を講じなかつた過失が認められるところ、被告長の過失と対比すると過失相殺として原告和田運送の前項損害の四〇パーセントを減じるのが相当である。

よつて被告らの賠償すべき原告和田運送の損害は金七九万八四円となる。

而して前認定のとおり同原告は原告同和火災から金七一万五〇〇〇円の支払を受けているので残損害額は金七万五〇八四円となる。

六  抗弁

1  和解

原告和田運送と被告らの間に和解が成立したことを認むべき証拠はない。

2  相殺

主張自体理由がない。

七  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、本訴請求額および認容額等に照らすと、原告らが被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告同和火災金七万一〇〇〇円、原告和田運送金一万円とするのが相当であると認められる。

八  結論

よつて、被告らは各自、原告同和火災に対し金七八万六〇〇〇円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五〇年一〇月一九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金、原告和田運送に対し金八万五〇八四円とこれに対する前同日から支払ずみまで前同割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告同和火災の本訴請求は全部正当、原告和田運送の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蒲原範明)

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